『ここに地終わり海始まる』 一途な愛の力が、心も体も強くさせる

公開日: : 最終更新日:2014/04/28 小説

宮本輝作のこの小説のタイトルは、なんとも雄大なイメージで、途方もなく豊かで、強そうな世界を想像できそうです。
ですが、一人の女性の成長していく姿を描いた小説です。それも長い闘病生活を送っていた、か弱い女性の「始まりの物語」です。

志穂子は、6歳の時から18年間も、肺結核のために、軽井沢の療養所で生活をしていました。
病気が悪化し、ついに手術をしなければならない時になって、奇跡のように病巣が小さくなり、好転して療養所を出られたのです。

それは、ポルトガルのリスボンから届いた、一枚の絵ハガキのためでした。
ロカ岬という場所の石碑にあった「ここに地終わり海始まる」の文のことが書かれた手紙、短い志穂子へのラブレターでした。

志穂子はこのハガキによって、知らず知らずに病気が回復するまでの、とてつもないパワーをもらったのです。
これだけならば、病気に打ち克つ話だけなのですが、志穂子の恋愛はここから始まるのです。
ラブレターの主の克哉に、18年間も世間のことをほとんど知らずに、病弱な生活をしてきた自分は、受け入れてもらえるのだろうかとの迷い。

克哉は本当に自分を好きなのだろうか、という疑問や悲しみ。

志穂子の歩き出したばかりの世間には、色々な人物が出てきて、物語の恋愛の方向に、様々に関係してきます。
そんな女友達との友情と、恋愛との葛藤。いつも自分を大切にしてきてくれた、両親の優しさの中で、恋愛に進んでいくことの後ろめたさのような思い。

そのような感情が、たくさんの事件とともに、丁寧に描かれています。
そして、志穂子は悩み傷つきながらも、自分を支えてきた愛の思いを、確かなものにしていくのです。
若いそうした志穂子の純粋な思いに、恋愛というものの力強さを感じずにはいられません。

なかなかうまくいかない、志穂子をめぐるラブストーリーに、読者は志穂子にエールを送りたくなります。
ラストまでどうなるかわからない、その後もどうなるのかわからない、恋愛の行方です。

しかし恋愛そのものよりも、「愛によって強くなった志穂子」の姿がとても深く印象に残り、感動することは間違いないです。

この話は現代よりは二十年以上も前の、携帯電話も無い時代の話ではあります。
ですが、志穂子の世間ずれしていない魅力の中では、そのようなやや古い背景が、より美しいものに感じます。
恋愛にちょっと冷めた思いをお持ちの若い方たちにも、恋愛の持つ底力に、改めて感激する小説なのではないかと思います。

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